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なぜ人は不安と恐怖がデフォルトなのか──生物学的には正常でも、現代社会ではバグになる(前編)



いつも何かに追い立てられている。

メールが来るだけでドキッとする。

駅で少し人にぶつかられただけでイラッとする。

SNSを見れば誰かと自分を比べてしまう。

ニュースを見るたびに、この先の世界が心配になる。

特別大きな問題が起きているわけではないのに、なんとなく落ち着かない。

不安がデフォルトになっている。

もしそんな状態が続いているとしても、それはあなたが弱いからでも、ネガティブな性格だからでもない。

むしろ、それが人間という生き物のデフォルトなのだ。

なぜなら、私たちはそう進化してきたから。

たとえば、冬を前にしたリス。

リスは必死に木の実を集める。

「もう十分だから今日は昼寝しよう。」

そんな個体ばかりだったら、種としてのリスは冬を越えられなかっただろう。

生き残ったのは、「まだ足りない」「もっと備えなければ」と危険を先回りして考えられる個体だった。

その性質は何万世代にもわたって受け継がれ、今日の私たちにも残っている。

人間も同じだ。

約30万年にわたる進化の歴史のほとんどを、私たちは「今日をどう生き延びるか」という環境で過ごしてきた。

猛獣。

飢餓。

寒さ。

敵対する集団。

そんな世界では、「大丈夫だろう」と楽観視する能力より、「危険かもしれない」と敏感に反応する能力の方が、生き残るためには重要だった。

だから私たちの脳には、危険を見つけるための非常に優秀なセンサーが備わっている。

それが、左右の側頭葉の奥にある小さな器官、**扁桃体(へんとうたい)**だ。

扁桃体の役割は、とてもシンプルだ。

「危険を察知すること」。

危険を感じると、理性的に対応を考える前頭前野よりも先に、身体へ命令を出す。

「逃げろ」

「戦え」

「身構えろ」

つまり、生き延びるためのサバイバルモードへ切り替える。

この現象は「扁桃体ハイジャック」と呼ばれている。

扁桃体が刺激に反応すると、そのわずかコンマ数秒後には交感神経が活性化する。

その後すぐにアドレナリンやノルアドレナリンが分泌され、心拍数が上がり、呼吸は浅く速くなり、筋肉は緊張する。

数分後にはストレスホルモンであるコルチゾールも増え、身体全体が「今は生き延びることが最優先だ」という状態へ切り替わる。

このとき身体は、とても合理的に動いている。

重要な臓器を守るために首や肩、体幹の筋肉は緊張する。

一方で、今すぐ命に関係しない消化や免疫、生殖などの働きは後回しになる。

つまり、身体は「ライオンから逃げ切ってから食事をすればいい」と判断しているのだ。

ここで大切なのは、私たちは「危険だ」と「考えて」から身体が反応するのではないということだ。

むしろ、それだと命を守るのに間に合わないから。

身体が先に危険へ反応し、そのあとで脳が「何が危険だったのか」を解釈していることも少なく無い。

つまり、不安とは頭の中だけで認知され、感じられているものではなく、身体全体で起きている、生き延びるための反応なのだ。

重要なのは、本来この反応は数分から数十分で終わるように設計されているということだ。

本来のこの危機回避システムの用途においては、ライオンから逃げ切れば、それで終わりだからだ。

火事場の馬鹿力で反撃する。

全力で逃げる。

あるいは死んだふりをする。

その短い時間を生き延びるために、扁桃体と交感神経というリスク回避システムがある。

一つ問題がある。

現代社会では、少なくとも私たちの日常生活にライオンはいない、ということ。

それなのに、多くの人の身体は四六時中サバイバルモードのままになっている。

なぜ、本来なら数十分で終わるはずの反応が、一日中、何年も続いてしまうのだろうか。

その理由は、私たちが暮らす現代社会の構造にある。

さらに言えば、その中心にある「アテンションエコノミー」だ。

(つづく)


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